薬指の約束は社内秘で
「愛美に、会わなくちゃ」

そうだ。この後、愛美に会いに行こう。

もし会ってくれなかったら、また明日。それでも無理なら明後日。
毎日通ったっていい。電話ではなく面と向かって話がしたい思った。

そう心に決めるとこの1週間ずっと胸を覆っていたモヤモヤが消え失せる。
止まっていた手を動かして花瓶に花を挿し終えると、「あのっ」と後ろから遠慮気味に肩を叩かれた。

聞き覚えのない女性の声。
振り返ると胸にかかる長い髪を綺麗に巻いた女性が困惑した表情で立っていた。


この人、秘書室で瑞樹と一緒だった――

彼女と会うのはまだ数えるほどしかないのに、こんな風にぎこちない笑みを見るのは、もう何度目だろう。

私が美希ちゃんに持ってきた花束とは比べ物にならない立派な花束を両手に抱えていたのは、秘書室で瑞樹と抱き合っていた社長秘書の彼女だった。

社内でも目立つポジションとその容姿から男性社員に人気が高い彼女の名前は、確か山下だったはずだ。控え目な淡いベージュ色のスーツが今日もよく似合っている。
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