薬指の約束は社内秘で
床の一点を見つめながら語っていた瑞樹がそこで言葉を止める。
ゆっくり引き上がる視線。私と目が合うと嬉しそうに笑った。

「実は俺。転属試験に通ったから、秋からドイツ支社の開発部で働くことになった」

「えっ、すごいね!」

ドイツ支社の開発部といえば研究開発の拠点で瀬戸モーターの中枢を担うと言っても過言ではない。

技術者の年収もセレブ婚を夢見る美希ちゃんが聞いたら、「合コンをお願いします!」と、土下座をして頼みそうなエリート集団の集まりだと聞いたことがある。

付き合っていた頃に瑞樹がよく語っていた夢。
その場所は、かつて彼が目指していたところだから――……


「おめでとう」

自然な笑顔を浮かべると、瑞樹は長い足を組み返しながら俯きがちに顔を逸らす。
それは付き合っていた頃に彼がよくしていた、すごく照れた時の癖だ。

「ありがとう」とポツリと言った瑞樹がチラリと私に視線を戻すと、何か聞き取れないほどの声で彼が呟いた気がして、「え?」と首を傾げる。

私を見つめる瞳が柔らかく細まった。


「やっと笑った。3年ぶりに見た」

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