薬指の約束は社内秘で
押し潰されそうな胸の痛みから逃れるように瞳を閉じる。
優しく私を呼ぶ声が頭の奥から聞こえてきた。

『愛、好きだよ』

思いっきり笑うと浮かぶ瑞樹の片えくぼ。

彼が女っぽいと嫌うそれを私は何度も見たくて、その屈託のない笑顔を曇らせたくなくて、いつもより少しだけ努力してみる。

そんな自分を少しだけ好きになれて、少しだけ自信がついて、厳しい就職活動を乗り越えることができた。

それだけじゃない。
彼のまっすぐな愛情は、どんな上質な毛布よりも柔らかく包み込んでくれた。

誰かに愛されることの幸せや安心感。

きっと思い出そうにも、思い出せないほどのたくさんのものを与えてくれたのに、居心地のいい場所で愛されることばかりを求めていた私は、

彼に何かを与えることができたのだろうか?


「私、瑞樹の優しさに甘えてばかりで、自分のことしか見えてなかった」

止めどない想いがいまさら胸を締めつける。
膝に視線を落とすと、「それは違う」と明るい声がかかった。

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