薬指の約束は社内秘で
「この前は、社長に異動願いを突き返されたばっかりで、つい意地悪しちゃったけど。二人のこと、邪魔するつもりはないんだ」

無理矢理でない笑顔。でもそれは、少し強がりなのかもしれない。
でもあえてそうしてくれる瑞樹に、やっぱり優しい人だなって思う。

もう少し前に、葛城さんと出会う前に、いまの瑞樹の気持ちを聞けていたら、どうなっていただろう――……

ぼんやりと考えた頭を心で大きく横に振る。

なに考えてるんだろう。
そんなことを考えることですら、葛城さんを裏切ることになるのに。


くだらないことを考えてしまった自分にため息をつきたくなる。
何とか喉の手前で止めた息を呑み込むと、ベッドから立ち上がった瑞樹がゆっくり窓際に歩いて行った。

鍵を外してカラカラと窓を横に引いた彼の前髪が、外からの風を受けてふわりと揺れる。
ゆっくりこちらを振り返った瑞樹がポツリと言った。

「あの場所に行きたいな」

「え?」

「二人が出会った場所。ほらっ、前に愛の実家に行った時に、一度行こうとしたろ? 工事中で行けなかったけどね」

「思い出のあの場所……」

ポツリ呟くと、幼い頃一緒に過ごした時間が鮮明に蘇る。
付き合っていた頃に、二人で行こうとしたことがあった。
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