薬指の約束は社内秘で
あの時も確か、瑞樹から行こうと誘ってくれたんだっけ?

邪魔はしないと言った彼の言葉に、嘘はないと思う。
だけど、葛城さんと瑞樹の複雑な関係を考えたら、やっぱりそれは難しい気がした。

なんて答えればわからず視線を泳がすと、瑞樹はそれが分かっているような少し寂しげな笑顔を浮かべた。

それから少しすると看護師の女性が瑞樹を呼びに来て、彼と過ごす時間が終わりを告げた。

瑞樹はもう少し話をしたそうにしていたけれど、仕方がないといった様子の彼と一緒に病室を後にして、一人で下りのエレベーターに乗りながら思う。

やっぱり山下さんは、瑞樹のことが好きなんだよね。

もしかしてと思っていた気持ちは、今日のことで確信に変わった。

瑞樹と彼女がキスをしていた現場から、彼女が逃げるように立ち去った意味。
あれは社長秘書としての立場からって思った。それもあるのかもしれない。

だけどそんなことよりも、彼女は瑞樹の気持ちに気づいていて、彼に申し訳ない想いで逃げるように立ち去ったんだ。

今日のことも急用だなんて、きっと嘘。
瑞樹に私を会わせるために会社に戻るなんて言ったんだ……

もういいと言ったのに何度も頭を下げ続けた彼女の心を思うと、胸がキリキリと痛みを放つ。
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