薬指の約束は社内秘で
仕事でミスをしたときに呼び出されるその場所に足を運ぶのは、久々だった。
経営統括室の隣にある会議室のドアをノックし、「どうぞ」を声がかかるのを待って中に入る。

室内の一番奥の長テーブルに片肘をつき、回転式の肘掛け椅子に腰掛けている葛城さんは、テーブルに広がる書類に視線を落としていた。

彼の右手に握られたボールペンがテーブルの上でカツカツと一定の速さで音を鳴らす。
それは彼が相当頭にきている時の癖だと、前に仙道さんが教えてくれた。

初めて見るその仕草にチクリと針が刺さったように胸が痛む。
ゆっくり歩み寄ると、射抜くような鋭い瞳が私を見つめた。

「ここに呼ばれた理由。わかるか?」

いつもより低い声のトーンに胸が震える。
「わかりません……」と小さく答えたら、一度息をついてから彼は続けた。

「最近。藤川の気の抜けた勤務態度は、目に余るものがある。それについて何か言い訳はあるか?」

「言い訳なんてするつもりないです。プライベートで気になることがあって……」

思わず心の声を吐き出してしまい、「しまった」と思うよりも先にボールペンを叩く音がピタリと止まる。俯いた視線を恐る恐る引き上げたら凍てついた瞳が私を見つめた。

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