薬指の約束は社内秘で
あの頃みたいに同じ人を好きになった私に、言えなくてずっと苦しんで、辛かったはずだから。
でも本当は――……

「ずっと言いたかったんだよね?」

私に体を預けた愛美の肩が激しく揺れる。
しばらくしてからそっと顔を引き上げたその瞳には、怯えや不安が広がっているように見えた。

だから、いつも彼女が見せてくれる明るい笑顔を作った。

「私だって聞きたい、愛美の嘘のない気持ち。だから……やっといま本心を聞けて、嬉しいんだよ?」

それは嘘じゃない。強がりでもない。でも出来るならその相手が、葛城さんではなかったら。
そうしたらもっと、もっと心から喜べるのに……

でもそれは、愛美だって同じことを思ったはずだ。


彼女に深い傷を負わせた高校2年の夏の出来事を思い出す。
色濃い夕日がゆっくり沈んでいく美術部の窓辺で、真剣な眼差しで筆を持つ一人の男性に私は恋をした。

一目惚れだった。

漫画の世界のように一瞬で恋に落ちることがあるのだと浮かれていた私は、周りがまったく見えてなかった。

私よりもずっと前から彼に想いを寄せていた愛美の気持ちに気づかず、彼女に想いを寄せる彼をも傷つけてしまった。

いまでも忘れられない。彼の告白を断ったときの愛美の凛とした横顔を。
彼を好きじゃないって言ったときに見せた笑顔を。
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