薬指の約束は社内秘で
愛美が彼を好きだったと知ったのは、私達が高校を卒業してから数ヵ月後の同窓会でだ。
彼女と同じ美術部の子達が話しているのを偶然立ち聞きしてしまった。

それから愛美を何度問い詰めても『それは誤解だよ』と彼女はまったく私の話に耳を傾けようとしなかったけれど、

「やっぱり本当は、佐々木先輩のこと好きだったんだよね? でも、私が先に好きだって言ったから言えなかった。だから先輩に告白された時も、私を想って断ったんだよね?」

私の胸で泣きじゃくる愛美がゆっくり顔をあげる。
彼女の頬を伝う涙をハンカチで優しくぬぐうと、感情を押し殺した抑揚のない声が鼓膜から響いてきた。

『藤川には——―関係ない』

その言葉の裏にある想いを、彼が時折見せる切なげな瞳を思い出す。
目に見えない負の感情を受けながら日々過ごしている彼が、心から安らげる場所を作ってあげたいって思ってた。

でもそれは、本当に私でいいの?

震える心に問いかけると、また新しい熱でまぶたの裏が熱くなる。
でも強い決意が心に芽生えていた。


愛美と話をした日から数日後。
残業を終えて会社を出たら、スマホをデスクの引き出しに置いてきたことに気づいた。

経営統括室に取りに戻り給湯室の前を通りかかると、葛城さんがコーヒーメーカーの前でぼんやり佇んでいるのが見えたから、「お疲れ様です」と声を掛ける。

「あれ? 帰ったんじゃなかったのか」

「ちょっとスマホを忘れちゃって……」

「相変わらずそそっかしいな」

いつもと変わりない憎まれ口が心地いい。
ここ最近はずっと張り詰めた空気が流れていた気がしたから。

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