薬指の約束は社内秘で
思わず吹き出しそうになるのを堪えてから、同期入社の田村くんに声を掛ける。

彼はキーボードを打つ手を止めることなく、チラリと目線を私に向けて不機嫌そうに言った。

「菓子か。喉乾くんだよな」

「あっ。嫌いなら別に」

「飲み物はないの?」

冷やかな声に、「えっ」と言葉を詰まらせる。田村君は無言で立ち上がりデスクを後にしてしまった。

そんな彼の態度に呆然としていたら、廊下に消えた彼を追うように右斜めにいた男性社員も席を立つのが視界の端に映った。

田村君は4月の人事異動まで私と同じ3課だった。

彼が2課に異動になってからは、挨拶程度にしか話す機会もなかったけど。

なにか気の障る言い方や態度を取っちゃった?
飲み物を用意する気遣いまでできなかったのは、悪かったのかもしれないけど。

どこか刺々しかった彼の態度に考えを巡らせる。立ち尽くしたままの背中に怒りの声が届いた。

「見てましたよ。なんですか、あの態度! 美希の嫌いな奴ランキング上位に急浮上ですっ」

振り返ると頬を膨らませた美希ちゃんの姿があった。

「またそんなこと言って。仕事の邪魔しちゃったんだよ、きっと」

声を荒げる彼女の肩を軽く叩き、「私、給湯室に行ってくるね」と声を掛ける。じろりと鬼の形相で睨み返された。
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