薬指の約束は社内秘で
「あんな奴にいれるコーヒーなんてないですよぉっ」

「違う違う。自分が飲みたいって思ったから、自分のだよ。それより青山君と楽しそうに話してたけど?」

「あっ、そうなんですよぉ。好きな芸人が同じで盛り上がっちゃいましたぁ」

弾んだ声に話が上手く逸れたようでホッとした。
田村君の態度に引っ掛かりは感じるけど、美希ちゃんにまで不快な思いを引きずってほしくなかった。

私も気にしちゃダメだよね。
気持ちを切り替えてデスクに戻り、空になったマグカップを持って廊下に出る。

悪天候のせいか靴跡が目立ち始めた廊下をゆっくり歩いていると、給湯室へ行く途中の喫煙所から低い声が聞こえてきた。

「今度の新車プレゼンって、3課はさっきの藤川さんだろ? それなりにやるって噂だけど」

思いがけず耳にした自分の名前に、嫌な予感が背筋に走る。そしてそれは、次の言葉で確信に変わった。

「そうでもねぇよ。昔から愛想笑いがうまいから3課の課長のお気に入りなだけ。でもその課長も脱サラして農家するとか言ってる、おとぼけな奴だしな。

女なんて所詮腰掛で会社に来て、仕事でミスったら泣いて誤魔化すくせによ。生意気にも前に出たがるんだよな。大人しく菓子でも配ってればいいのにっ」
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