薬指の約束は社内秘で
「えっ。それじゃぁ」

「まったく。朝からキョドりすぎだろ」

なんかものすごーく催促をしてしまったようで恥ずかしくなる。
耳まで熱くなった頬を下に向けると、慰めるようにポンポンと頭を軽く叩かれた。

「落ち込んでんのか? 早とちりなんて、いつものことだろ」

「落ち込んで……ない。でも、死ぬほど恥ずかしいかも」

「大袈裟な奴。でも、そうだな。やっぱり死ぬほど恥ずかしいこと、ここでしてみる?」

意地悪な囁きを漏らした唇が、間髪を容れず耳たぶを甘噛みしてふわっと吐息を吹きつける。不意打ちのそれに肩を跳ね上がらせると、楽しそうな瞳で見下ろす優生と目が合った。

「もうっ。からかわないで」

「悪い。でも、やっと顔上げた」

ふっと息をついた彼の瞳が一瞬で優しいものに変わる。
思わず引き寄せられるそれを見つめ返すと、抱かれた身体が彼の膝の上から少しだけ宙に浮き、彼の両足の間に体ごとすっぽり入り込む。

ちょうどバルコニーの正面に体が向いて、目の前に広がる光景に思わず息をのんだ。

朝焼けで色濃い朱に染められたビル群の背景にうっすらと、でも確かな存在感を放つ富士山の姿。

朝一番の澄んだ空気に包まれたそれは、実家の静岡から見る景色とはまた違った表情を見せてくれた。
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