薬指の約束は社内秘で
冷たく吐き捨てた声に頬が一瞬で熱くなる。聞き間違いじゃない。田村君だ。

立ち竦む私の存在に気づかない彼らは煙草の煙を吐き出しながら、汚い言葉を続けていく。

「――だなぁ。いいよなぁ、女は。俺も女になりてーよ」

「それより俺さ、今度部長に頼まれてドイツからくるお偉いさんの通訳することになってさぁ」

「マジ? 失敗するなよー。でも俺も、田村を見習って部長のゴルフや釣りに付き合うかなぁ」

「あぁ、それがいいよ。可愛くもない部長の子供にお世辞使ったりしてかったるいけどな。部長は役員の話も来てるっていうし。今のうちに評価上げとかないとな」

煙草を灰皿に押し付け笑い飛ばす田村君の横顔に、すっと冷たいものが背筋を伝う。
自分に非があると思ったことを激しく後悔して、下唇をギュッと噛み締めた。

踵を返し廊下を戻り始めながら思う。

そういえば田村君がまだ3課にいた頃。彼は部下である女子社員には、面倒な資料整理やサポート的な仕事しか与えてなかった。

なるほどね。彼の本性が見えた気がした。同じように仕事ができても『所詮は女』の一言で片付ける。
『女は三歩下がって三つ指ついてろ』の精神を会社にも持ち込むタイプなんだろう。

彼のように上司の顔色を窺ったり、積極的に社外でもコミュニケーションを取ることを悪いとは思わない。

むしろその点は見習うべきだとも思う。
誰だって自分を慕ってくれるかわいい部下とは、仕事だってしやすいと感じるからだ。
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