薬指の約束は社内秘で
だけどあんな風に陰で悪く言いながら、見返りを求めるのは違う気がした。

反論しても仕方ない。仕事で見返すしかないんだ。
大きく歩幅を取った足をガラス扉の前で止める。熱くなった頬を軽く叩いてから室内へ足を向けた。


田村君のブラックな一面を知ったあの日から数日後。
梅雨の合間の五月晴れに恵まれた今日は、絶対に負けられない社内プレゼンがある。

そろそろ会場の会議室へ行こうかな。

左手首の腕時計に視線を落とす。茶色の革地の時計は高級ブランドとは言えないけど、静岡で暮らす父が入社祝いに買ってくれたものだ。

居酒屋を営む父とはお正月以来会ってはいない。
そんな父は、「お盆には絶対帰ってこい」とメールを寄越した後で「メール届いたか?」と確認電話までかけてくる。

そういえば、昨日来たメールの後で電話なかったな?

ふとそんなことを思っていたら、心の声に反応するようにデスクの上の電話が鳴った。

嘘、会社にまで!? 

心で愚痴てから受話器を取る。でも電話は滅多にかかってこない総務部からのもので、「急いできてほしい」と言って切れた電話に首を傾げた。
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