薬指の約束は社内秘で
切羽詰った声は新人さんかな? 確認したいことってなんだろう。

プレゼン時間も迫っていたから資料を片手に販売部よりひとつ下のフロアに立ち寄ると、一人の女子社員が泣きそうな顔で立ち上がった。

一体、なにごと? 

首を傾げた私に震える手で差し出されたのは、1枚の申請用紙。

そこにあるあり得ない文字に、「へ?」と間の抜けた声が唇から漏れた。

「藤川さんっ、ごめんなさい! 私、お給料を入力する担当なんですけど。

今月振り込まれる予定の藤川さんの結婚祝い金が、振り込まれなくなっちゃったんです。私が……デスクの隅にあった申請用紙を見落としたせいで」

デスクに額をぶつける勢いで頭を下げたその子に、「ちょっと待って!」と声を張る。

申請用紙には販売部3課の私の名前がある。でも、悲しいかな。まったくもって身に覚えがない!

あぁ、なるほど。どこかのセレブが眠っている私の唇を奪い、誓いのキスをしてくれたんだ――て、だから夢見がちとか言われちゃうんだって!

葛城さんに散々馬鹿にされたけれど、さすがにそこまで頭ん中お花畑になってない。
それによく見ると押印こそ藤川だけど、申請用紙にある文字は私のとは違う。それに所属長の承認印もなかった。

< 46 / 432 >

この作品をシェア

pagetop