薬指の約束は社内秘で
なんて、大人げない態度を取るほど私だって子供じゃない。(葛城さんなら痛烈な毒でも吐くんだろうけど)

「本当にごめん。怪我とかなかった?」

「うん。大丈夫」

ぶつかった左肩はじんじんと痛みを放つ。でも田村君にだけは弱いところをみせたくない。
にっこり笑って彼が拾ってくれた資料を受け取ってみせる。

清掃が行き届いているフロアでよかった。

書類に目立った汚れもないことにホッと息をつくと、「いまのは悪かったけど、プレゼンは負けないからな」
冗談っぽく笑った田村君が、「お先にどうぞ」なんておどけた調子で会議室の扉の横に立つ。

それにはさすがに、苦笑いしか返せないって。心で呟いてから、会議室の扉をノックする。

「失礼します」

少し緊張した自分の声が廊下に響き、「落ち着け」と心に言い聞かす。
その間強い何かを背中に感じてチラリと背後を振り返ると、いつもより気難しい顔をした葛城さんが私を見つめていた。

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