薬指の約束は社内秘で
『女は手間と面倒な仕事ばかり押し付けられるんですよねぇ』

普段そんな風に愚痴ってる美希ちゃんも、頼んだ仕事は時間内に必ず終わらせる。
お給料を貰っている以上、軽い気持ちで仕事をしてないからだ。

田村君が隣の男性社員に耳打ちしてから、私の方へあざらうような視線を流す。

『菓子でも配ってればいいのに』

またそんなことを言ってる? ダメだ。気にしてる場合じゃないのに。でも、今日はなんかついてない。きっと、厄日なんだ。

白く染まっていく頭にそう言い聞かせてプレゼンを途中で終えようとする。頭の奥で鋭い声が響いた。

『そんなの都合のいい言葉だろ』

それは瑞樹との再会を運命と言った私に、葛城さんが返した言葉。

あのとき本当は、強く胸を突かれたことを思い出す。
あの言葉に傷ついたのは、図星だったからだ。

いつだって私は何か壁にぶつかったり、いまみたいに上手くいかないことがあると簡単に諦めてしまう。
そう、いつだって。何か都合のいい言葉を探して逃げだしてしまう。

瑞樹とのことだって、もしかしたら――

幸せだった頃の記憶が蘇る。
まだ付き合っていた頃、優しく包まれる腕の中で何度も朝を迎えた。
目覚めのコーヒーふたりで飲みながら、湯気の向こう側にいる瑞樹は嬉しそうによく語ってくれた。
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