薬指の約束は社内秘で
『――実は、俺。ずっとやりたいことがあってさ』

大学時代に工業系を選択していた彼は、経営よりも開発部門で力を発揮したいと言っていた。
口角をめいいっぱい引き上げて夢を語り、彼が「嫌だ」と言っていた片えくぼが薄らと浮かぶ。

そんな瑞樹を見るのが大好きで、私達はお互いの夢についてよく語り合った。

でも、いつからだろう。私の言葉に瑞樹が興味を示さなくなったのは。
考えても、思い出せそうになかった。

きっと、そのときにはもう――
彼の進む道は彼の意思とは関係ないところで、決められていたのかもしれないのに。

『これ以上一緒に、いられない』

曖昧ともいえる別れの言葉だって、彼の立場を考えると仕方のないこと。

でも、本当にそれだけだった? 違うのかもしれない。
瑞樹は優しかったし愛されてる実感もあった。何より彼は、ずっと会いたかった初恋の人。

私はそんな運命みたいな再会に酔いしれてばかりで、二人が付き合っていく為の努力をいつしか怠っていたのかもしれない。

いまだって、私は――
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