薬指の約束は社内秘で
でも一度加速してしまった鼓動は簡単に止めることはできなくて、「少しは、気にしてくださいよ」と小さく愚痴ると、

「なんだよ? 一口しか食ってないだろ」

ケチな奴。とでも言いたげな瞳に言い返してやりたい。

違う。綿あめを食べたことじゃない。
無意識なんだろうけど、こういうのって誤解を生むのに。でもそれは、勝手に意識してる私が悪い。

鳴り止まない鼓動が静寂に漏れてしまいそうで、服の上からギュッと押さえつける。
課長の家でかなりの量のお酒を注がれていた葛城さんは、表情にこそ出てないだけで、少し酔ってるんだろう。

そう、それだけ。ただ、それだけなのに――

お堂を覆うようにそびえる樹木が強い風に揺れる。
鎖骨までかかる髪が乱れて左手で押さえつけると、隣から気遣うような声が届いた。

「冷えてきたな。そろそろ帰るか?」

「寒くはないです。それにまだ、食べ終わってないし」

一瞬の間も置かずそう返すと、葛城さんは浮かしかけた腰を下ろし、僅かに瞳を細めた。

「面の皮が厚そうだもんな、藤川は」

毎度毎度の憎まれ口だ。でも気にしないフリをして綿あめを口にする。
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