薬指の約束は社内秘で
少しだけ、嘘をついた。

課長の家でいつもより早いピッチでお酒を飲んでいたから、外の寒さを気にせず薄着で来ていた。
風よけのないこの場所は体を冷やし始めていたけど。

でもそれよりも、まだ帰りたくない。そんな想いが勝ってしまう。

今日何度目かの説明のつかない想いが胸を締めつけ、答えを探すように隣にある横顔をそっと見る。

形の良い薄い唇は、毒舌でひねくれたことばかりを口にするけど、いつも正しい道へと導いてくれる。
明るい夜空を見つめる瞳は、いつも意地悪に細まって、でも時々思いがけず優しい色を添えて、私を見つめてくれる。

何をするわけでもないのに、誰かと過ごす時間がこんなにも心地よく満たされた気持ちになるのは、いつ以来だろう?


さわさわと木々だけが揺れる静寂の中。
穏やかな気持ちでそんなことを考えていると、木の枝を一際大きく揺らすほどの風が吹く。

髪に綿あめに触れてしまい、それをはらおうとした私の左手よりも先に、隣から伸びてきた長い指先が優しく髪を梳いてくれる。

少し瞳を細めて髪を梳く仕草に、落ち着いたはずの鼓動がまた強く脈打ち始める。

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