薬指の約束は社内秘で
「実は私の実家って、偶然にもこの町の隣町にあるんです」


都会から離れて豊かな自然とおいしいお茶だけが自慢の故郷は、私をいつだって温かく迎えてくれる。

それは町を取り囲む雄大な山々であったり、家族であったり、友人であったり。

たくさんの人に支えられて、これまで生きてきた。


だから、大切な人達との別れが悲しかった。


「昔は、お茶だけが自慢の――……それだけしかない町だったんです。私が幼い頃は年々過疎化が進んで小学校も閉鎖の危機でした。

そんなとき隣町に自動車メーカーの工場ができて、地域の雇用が確保されたんです。

少しずつ活気が戻って小学校も閉鎖されずに済みました」


「それが、うちの会社ってことか」

「はい。だから、すごく感謝してるんです」


葛城さんは納得したように、「そうか」と呟き、視線を再び夜空へと向けた。


瑞樹の祖父である会長はこのところ体調が優れないらしく滅多に会社へは来ないけれど、


「地方都市に活性化を」


そんな強い想いから社内の反対意見を押し退け、隣町に工場を新設してくれたと噂で聞いた。


そんな会長は、私が最も尊敬する経営者だ。

でも質問の答えは、実はもうひとつあった。
< 81 / 432 >

この作品をシェア

pagetop