薬指の約束は社内秘で
「さっきの質問の答えですけど、実はもうひとつあって。

幼い頃にある出会いがあって、あの日は色々なことがあったけど、私は彼に救われた。
それが、瑞樹――瀬戸さんだったんです。

そのときした彼との約束がずっと頭にあって、もしかしたらそれも、会社を選んだ理由なのかもしれません。
だから彼と別れてしまっても、彼との思い出は忘れられない。大切な思い出なんです」


瑞樹との関係は変わってしまったけど、思い出だけは変わらない。
いつだって思い出す度に胸を温めてくれる、優しい記憶だから。


遠い日に思いを馳せながら口を閉ざす。
夜空を仰いでいた葛城さんが、「帰るか」と静かな声を漏らした。

立ち上がった彼に遅れを取らないよう慌てて腰を浮かせると、地面にあった小石に足を取られ尻もちをついてしまう。

さぞ、まぬけ顔でいるだろう私に、どんな毒が返されるかと思っていたのに。

葛城さんは無言で私の左手を取ると、そのまま強く引いて立ち上がらせてくれた。

絡み合う指先が少し冷たい。
私の勝手な想いでここに留まったことを後悔していると、絡み合う指先に力をこめられた気がした。

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