薬指の約束は社内秘で
美希ちゃんは私よりも年下だけど、恋愛経験は私よりずっとありそうだもんなぁ。

「私の勝手な恋愛観ですけどね。無意識なときほど素直な感情はないって思いますよ。その人、先輩のこと好きなんじゃないですか?」

「ソンナ、マサカ、アリエナイ」

「そう、そうやって。すぐ顔に出る可愛いところに惚れちゃったんですよ、きっと」

あり得なさすぎて機械的な口調になった私に、美希ちゃんはくくっと肩を揺らして笑い出す。
コーヒーカップから立ち昇る湯気が目の前の笑顔を薄く遮り、別の人のものへと変えていく。

こめかみを痺れさす低い声が脳裏に蘇った。

『藤川』

本当は、わかってた。無理矢理納得させようとした答えに無理があること。

それで自分の気持ちが落ち着けるなんて、全部嘘。

テーブル脇にある紙ナプキンを1枚手に取る。
乾ききった唇にそっとナプキンを押し当てると、数日前に首筋に触れた感触を思い出してしまい、少しだけ頬が熱くなる。

葛城さん。どうして? どうして、あんなにも切なげな声で、何度も名前を呼んだの?
< 93 / 432 >

この作品をシェア

pagetop