薬指の約束は社内秘で
本当は、あのとき意識してしまった。

彼の前髪が私の鼻先を掠めた瞬間、切なげな声を漏らした唇と重なり合うことを。
私は、一体どうしたいんだろう。葛城さんにどんな答えを貰いたいの?

それが分からない限り、彼に答えを聞くこともできない。

美希ちゃんに気づかれないように息をつき、テーブル脇にある伝票を手に取った。


昼休みを終えて美希ちゃんと会社に戻ると、販売部はちょっとした騒ぎになっていた。

フロアにはお客様用の応接室とは別に、他部署の社員と軽い打ち合わせをするスペースがある。

パーテーションで仕切られているそのひとつに、男性社員の視線が注がれている。
隣の課の田村君もそわそわと落ち着かない様子だった。

珍しく役員でも来てるのかな?

美希ちゃんと不思議そうに顔を見合わせていると、聞き慣れない女性の声で、「藤川さん」と呼ばれた。
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