薬指の約束は社内秘で
言葉なく俯いたままでいると、仙道さんは少し間を置いてから、声を潜めるように耳打ちしてきた。

「大丈夫。彼の見る目に間違いはないの」

少しトーンが柔らかくなった声に彼女を振り返る。

それは私を経営統括室に呼んでくれた人のこと? 
でも見る目って、一緒に働いたこともないのに。なんだか適当な理由だな。

でも少しだけくだけた口調になった仙道さんに、ほんの少しだけ気が緩む。

こんなくだけた質問を思いきってぶつけてみた。

「もしお断りしたら、どうなるんでしょう?」

すると今度は一瞬の間も置かず、綺麗な微笑で返された。

「雇われの身って辛いわよね。従えないのであれば――……仕方ないですね」

いま、見えた! 『仕方がない』の後に、ブラックな仙道さんの顔を垣間見た!!

「藤川さん、どうしますか?」

そんなモン。平社員の私には選択肢なんてないくせに。

そう心で愚痴ってから「わかりました」と小さく頷き、彼女と販売部を後にした。
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