叙情
「おい?クソガキ着替え終わったか?」


「あ、はいっ!」


どういう顔したらいいのかも
分からないまま
男の手によって
扉は開かれたわけだけど・・・


案の定・・・私は

黙り込むしか術はなく

男も、黙ったまま寝転び
天井を見上げている。

そして、そんな時間が
数十分過ぎた頃だろうか。


「あいつさ~」


男が沈黙という空間を消してくれた。

私は、じっと
扉の隙間からの月明かりで薄っすらと見える男の方を見ている。


「俺の元家庭教師でさ。
ガキながらにも真剣に幸せにしてやりたいとか思ってたのに
俺は・・・ガキで何もできなくて
そんな事続けてたら
いつの間にか他の男にかっさらわれて
つっても、親父なんだけどな・・
今じゃあ・・・継母っていう
めちゃくちゃな関係でさ。
マジ・・・俺、何してんだろうな・・」


まるで顔を隠すように
両腕で自分の顔を覆っている。



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