On Your Marks…~君と共に~
確かにこいつの気持ちは正直あたしにはわからない。
だって、大切な人を失ったことはないのだから。
だけど、これだけはわかる。
勝木の親友だったのなら、勝木が走らなくなることをきっと望んではいない。
「バカじゃないの?憎むはずないじゃん。
そりゃ、あんたが、こうやって才能をこれから一生もてあます気なら、憎まれても仕方ないとは思うけどね」
あたしは言葉を抑えることはしなかった。
頭で考えるより、すぐ口に出していた。
「お前に俺の何がわかるんだよ」
勝木の鋭い目があたしのことを睨む。
「わかるはずないじゃん」
「じゃあ、これ以上俺に口出しすんなよっ!」
そういって、勝木はあたしから目をそらして下を向いてしまう。
「わかんないけど、あんたは間違ってる。それは確かだから」
「……」
勝木の反応はない。
相変わらず下を向いたまま。
あたしの耳に聞こえてくるのは、川のせせらぎと鳥の囀(サエズ)りと、時たま通る自動車の走る音だけ。