身代わり王子にご用心
「え、遠慮なんて……なにもしてません」
桂木さんにそれだけは、と口にすると。彼に即否定された。
「いいえ。あなたは他人に気遣い過ぎるあまりに、本来の自分を押し殺してしまってます。
なぜ、そんなにご自分を否定するのですか?」
「……それは」
言えるはずがない。
口に出してしまえば、みっともない自分の嫉妬まみれの感情が溢れだしてしまうに違いないから。
「……ごめんなさい……」
私はただ謝ってやり過ごすしかなかった。そんな私に桂木さんは小さく息をつき、寂しげに呟いた。
「……まだ、僕にはそこまで心を開いていただけませんか」
「そ、それは……」
「いいんです、今は。まだ時間はありますから、ゆっくりとでも僕を信頼して下さるよう頑張りますから」
桂木さんはそんな意味不明なことを言ったけど、私には何が何だかさっぱりと解らない。
「それより、そのアボカドの料理が気になったんですか?」
話を変えてもらえてホッとした私は、コクッと頷いた。
「はい。アボカドを食べたのは初めてですけど、とても美味しいですね。お家でも作ってみようかと思いましたけど。ドレッシングがいまいち解らなくて」