身代わり王子にご用心
「軽井沢(かるいざわ)の大半はエロと煩悩で出来てるから、ヤツが何かを言っても真に受けちゃダメよ」
「はぁ……」
曽我部さんのおっしゃる意味がわからずに、きょとんとしてしまう。エロとか……私のどこに、異性としての要素があるのか解らなくて。
「あちゃ~こりゃ、解ってないわね」
「えっ……?」
曽我部さんがやたら自分の胸元を指さす。私の胸元? と見下ろせば、その前にバサッと肩に何かが掛けられた。
「その格好じゃ寒いだろうから、僕ので良ければ着てて」
いつもの爽やか笑顔で桂木さんが言うから、お礼を言ってジャケットを借りることにした。ダッフルコートじゃお料理出来ないもんね。
「おい~桂木! あの素晴らしい谷間の眺めを独り占めするつもりか~!」
「オニ~!!」
若干数の男性がよよよ、と泣き崩れながら名残惜しげに私を見てたけど。意味がわからなかった。
「構いませんよ。僕を敵に回す覚悟があるなら、どうぞ」
桂木さんが涼しげに微笑みながらこうおっしゃったら、誰もが沈黙したけど。
彼の背後に黒いオーラが見えたのは、気のせいに違いない。……たぶん。