身代わり王子にご用心
四六時中そんな感じで、身が持たない。
それでもこの一時だけの幸せを甘受しようと、懸命だった。
カイ王子が喜んでくれるなら、何だってする。自分で自由にできるものなら、何でも差し出そう。
そう決意した甘い日々が終わりを告げたのは、7日目の朝で。
ぼんやりした頭のまま目を覚ませば、既に隣のカイ王子は姿を消していた。
……やっぱり、捨てられたんだ。
解っていたことなのに。いざそうなると、寂しくて悲しくて苦しかった。
……私も帰らなきゃ……。
クリーニングサービスから戻ってきた私服をそもそと着ている最中、ドアがノックされたので誰だろうと訝しく思う。
誰にも連絡は取ってないから、私がここにいるのを知ってるのは、カイ王子と側近くらいのはずだけど。
でも、いつまでもここにいてもらちがあかない。もしかするとカイ王子が鍵を忘れて戻ってきたのかもしれないし。
(このホテルはドアがオートロックだから)
「……はい?」
警戒を忘れずに応答をすると、意外な人が訪れたのだと知る。
「おはようございます。アルベルトございます」
アルベルト……確か、カイ王子付きの侍従で一番上のひとだったはず。
名前につられてドアを開けば、緑色のひどく冷めた瞳で慇懃無礼にこう言った。
「カイ王子のご命令で、マンションまでお送り致します」
運転手付きのロールスロイスに座り、ひどく居心地の悪い思いをしながら送られてる最中、アルベルトさんに睨み付けられた。
「……カイ王子は今月いっぱい滞在された後、ヴァルヌス王国に帰国なされる。高宮の身代わりを終えて。そこに、あなたの居場所はない。分不相応な期待などなさいませんように」