身代わり王子にご用心



四六時中そんな感じで、身が持たない。


それでもこの一時だけの幸せを甘受しようと、懸命だった。


カイ王子が喜んでくれるなら、何だってする。自分で自由にできるものなら、何でも差し出そう。


そう決意した甘い日々が終わりを告げたのは、7日目の朝で。


ぼんやりした頭のまま目を覚ませば、既に隣のカイ王子は姿を消していた。


……やっぱり、捨てられたんだ。


解っていたことなのに。いざそうなると、寂しくて悲しくて苦しかった。


……私も帰らなきゃ……。


クリーニングサービスから戻ってきた私服をそもそと着ている最中、ドアがノックされたので誰だろうと訝しく思う。


誰にも連絡は取ってないから、私がここにいるのを知ってるのは、カイ王子と側近くらいのはずだけど。


でも、いつまでもここにいてもらちがあかない。もしかするとカイ王子が鍵を忘れて戻ってきたのかもしれないし。
(このホテルはドアがオートロックだから)


「……はい?」


警戒を忘れずに応答をすると、意外な人が訪れたのだと知る。


「おはようございます。アルベルトございます」


アルベルト……確か、カイ王子付きの侍従で一番上のひとだったはず。


名前につられてドアを開けば、緑色のひどく冷めた瞳で慇懃無礼にこう言った。


「カイ王子のご命令で、マンションまでお送り致します」


運転手付きのロールスロイスに座り、ひどく居心地の悪い思いをしながら送られてる最中、アルベルトさんに睨み付けられた。


「……カイ王子は今月いっぱい滞在された後、ヴァルヌス王国に帰国なされる。高宮の身代わりを終えて。そこに、あなたの居場所はない。分不相応な期待などなさいませんように」


< 260 / 390 >

この作品をシェア

pagetop