身代わり王子にご用心
いつの間にか後ろから、抱きしめられていた。
ドクン、と心臓が跳ねる。
広く厚い胸板……細身に見えてほどよく筋肉がついた二の腕……。
知ってる。
私は……この胸を、知ってる。
頭に顎を軽く載せられた体勢のまま、より深く抱き込まれる。ふわりと香るフレグランスに、泣きたいほどの懐かしさを感じた。
『なんだ、おまえは!?』
『オレ? オレはタカミヤだけど?』
『……タカミヤ?』
アレックスの怪訝そうな顔に、ククッと喉を鳴らして笑う。きっと意地悪そうな顔をしているんだろう。ほら、アレックスが顔を赤らめて怒った。
『何が可笑しい!』
『いや……虚しいアピールほど無駄なことはない、って思ってね』
『カイ!』
あまりに失礼な言い方に、思わず彼の名前を呼んで咎めると。
彼は、私を一度離したけど。それでも腰に巻き付いた腕はがっちりと離れない。
チラッと横を見れば、彼は分厚いだて眼鏡を外し髪の毛を整えてる。モデル以上の端正な顔だちの中にあるブルーグレイの瞳とシルバーブロンドが、月光の下で輝く。
息を飲んだアレックスといつの間にか周りに集まった人々に、彼――カイ王子が堂々と宣言した。
『私はこのヴァルヌスの第一王子、カイ·フォン·ツヴイリングだ。桃花は私が20年前からずっと欲しかった女性だ』
カイ王子はそう周りに知らしめると――
私の顎をつかみ、みんなの目の前で私にキスをした。