透明人間
 あの日の晩から私の夢は例の夢に変わった。暗い洞窟のようなところをさまよい、何か人影かと思ってその人影に近づくと、年度のように崩れるといったものだ。恐怖が作り出した夢なのか、私は寝る前にいつもその夢を、今度こそ見ないようにと願っている。しかしおびえて布団に入る私の姿は、外から恐怖を引き寄せる効果のようなものがあるのだろう。そして見えない恐怖が、雲が空を覆う闇から私のもとへと忍び寄る。

 恐ろしい体験は心に残る。しかし体験ではないものは記憶として残る。どちらが怖いといえば、どちらも怖い。思い出すだけでも身震いするような、そんなものが一生まとわりつくのだ。違う恐怖がこみ上げてくる。

 恐怖からは逃げられないことは知っていたが、恐怖から遠ざかろうとしていた。あえて恐怖を受け入れて誠也のことをずっと考えていたとしても、やはり恐怖が私を覆って、結局は自分が自分でいられなくなることだろう。

 もしかしたらそれを恐れていたのかもしれない。だから恐怖を受け入れることができない私がここにいる。

 長い夜が苦痛になり、そして悪夢に変わる。そんな想像するだけで頭が痛くなるような毎日をよく暮らしていると自分でも感心する。

 早く誠也を見つけ出して、この体で抱いて、新たに三人で生活を送りたいと思う。今ではなんで私だけと思わなくなり、代わりに少しでも早く、ほんの一秒でも早く会いたいと思っている。

 その表れなのか、時々誠也が近くにいるような気がする。信念がそう感じさせたのかもしれない。誠也が私に触れているような気もする。

 私はいないことを分かっていながらも、理解できずに苦悩でいた。いつかは自分の存在意義さえもなくなってしまうような、そしていつか自分が光の粒子となって消えてしまうのではないかと考える。誠也と会うまではそうなりたくない。いや、ならない。そう信じることしかできない私が切なく感じられた。
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