透明人間
 いつの間にか一ヶ月が経った。

 警察の捜索も難航し、もう見つからないのでは、という声も上がっているほどだ。殺人の逃亡者よりもはるかに捜索は簡単なはずだと思う。まして時効を過ぎるまで逃げる者もいる。しかしその者というのが子供一人だ。行動範囲は限られている。その上、捜査の範囲も狭まっている。しかしその中で最悪のパターンである死体遺棄、いわば死体で見つかるというのが耳に入っていないというのが幸いであった。入っていないだけなのかもしれないが、毎日テレビに貼りついているのでそんなことはない。

 それにしてもあれから一ヶ月経つとは遅いようであっという間であった。身も知らない世界に入り込んで、現実からかけ離れてしまったような、そんな生活は辛く、孤立していた。暗闇に潜む恐怖が私の心を蝕んでいる。すでに昇の背後にはその兆しが見られている。その証拠に頭を抱え、一人何かぶつぶつとつぶやいている。

 そしてさらに昇の背後から忍び寄る影は大きくなるのであった。


「なんなんだ…」

 ドアを開けて入ってきた昇は弱々しい声でそう言った。今回は本当に頭を悩ましている様子であったので、何があったのか気になった。洗面所に行ってほんの数分の出来事であるが、何が起こったのだろうか。昇は抜け殻になったようにまだつぶやいている。

「何かあったの?」

 昇は気付いたように、こちらを睨んだ。睨んだというよりも、やつれた顔でそうなってしまったようであった。前まで見ていた昇の原型をとがめない顔である。

 しばらくまともに対面していなかったので、その顔を見た私は少しぎょっとした。

 そして昇は口をゆっくりと開けた。
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