透明人間
 渋野は不思議そうに私を眺めていた。

 私は話を続ける。

「男ってね、単純なの。高級レストランの後は…ってことよ。その後は自由に想像しなさい。別に悪いことなんてないから」

「はー、分かりました。ありがとうございます」

 渋野はまた微笑み、ドアを開けた。

「じゃ、気をつけて行ってね、渋野さん」

「では、お先に失礼します。それと、私のことは下で呼んでもいいですよ、霧生って」

 渋野はそれじゃあと言いながら扉を締めた。

 私は渋野の若々しさに少しうらやましかった。ただ戻りたいというわけではないが、あの新鮮な感じが、ただうらやましかった。

 私は制服を着替え、身支度をすると足早にその場を後にした。


 もうすっかり寒い時季になった。その寒い空の下に出てきたのは場違いのようで、一度はデパートの中へ戻ろうとも考えた。しかし逆に考えれば私はそこに居合わせても同じような気がする。それで今自転車にまたがってショッピングモールを走っている。

 もう外は暗く、街灯が点々と点いているその中で、人は人と手をつないで歩いている。店も華やかな飾りで、見事に夜の街を演出している。

 そんな時、ふとある店の光がまぶしく、その店から目を避けようとしたら、一瞬視界に誠也を連れた昇の姿が映った。

 私は再びその店の前を見てみたが、やはりそこには昇の姿が見えた。しかし誠也はいなかった。今ではもう誠也の姿が亡霊のように映るようだ。それより今一番会いたい人と会いたくない人が同時に見えたのが、なぜだか嫌に感じられ、さらに嫉妬心にも駆られた。

 私は昇に声をかけられるはずがなく、そのまま見てみぬふりをして帰路に着いた。
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