透明人間
 霧生は髪を結びなおしながら、少しの間考えていたが、後に納得したように言った。

「あ、そうですね、まだ知らないんですね。というより、これは夜勤じゃなくて、どちらかというと夜警ですけど、なんか、この辺のスーパーやこのデパートでですね、毎晩お菓子の袋とか歯ブラシとか洋服とか、とにかく色んなものが落ちてるんです。お菓子なんかは全て中が空で、日用品なんかがなくなるそうです。物騒ですよね。というよりも変わった泥棒ですね。でも三ヶ月ほど前ぐらいからですから、もうとっくに捕まってもいいんですがね。警察も何やってんだか…もしかしたら幽霊だったりして」

 私はぼーっとしながらその話を聞いていた。そんなことがあるはずがない。姿が見えないわけではないのに。

 そして私はあちらこちらへと意識を浮遊しているうちに一つ疑問にたどりついた。

「ねぇ、監視カメラとかには何も映ってないの?」

 霧生は機敏に反応した。

「いや、まあ、機能しているはずなんですが、映っているのは…物が棚から勝手に落ちるところとか、ポテチとかが宙を浮いて、ポテチ自体は見えるんですが、いつの間にか中身は殻で、袋がその場に捨てられたり、しかもそこを調べてみると、ポテチのカスとかが落ちているんですよ。それ以外は何も。何でしょうね、本当に幽霊だったりして」

 霧生は子供のように喜んでいる。まあ、その気持ちを分かってやらないわけでもないが。

 しかしそんな余裕も後にやってくる不安には勝てなかった。

 じつは、私は幽霊とお化けとかというのが嫌いであった。いないというのは分かっているのだが、いないという理性が逆に怖いと思わせているようだ。

 すると突然、新たな疑問が浮かび上がった。

「もしかして、夜勤って一人でやるの?」

「いや、なんか私とみたいですよ」

 私はほっと腕をなでおろした。

 霧生は化粧を終えると、私に呼びかけた。

「早く行きましょう。またあの人に怒られますよ」

 霧生は先に出て行った。

 私もその後を小走りでついていった。
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