透明人間
 その夜、私は布団の中であの夢を見ないよう祈っていると、ふと一つのことに気付いた。それは明日の夜勤のことであった。

 この夜勤が始まったのは約三ヶ月前、誠也がいなくなったのは三ヵ月半前、そして相次ぐ窃盗のような事件はデパートの近辺とデパート自体で起こっている。ということはもしかしたら、という希望が湧き上がってきたのだ。

 私はその希望を胸に知らずのうちに眠りに落ちていた。

 その日から、あの夢は見なくなった。


「さっさとやって帰りましょうよ」

「…そうね」

 霧生は私を急かし、今にも行きそうになっている。

 希望は確かに胸にあったものの、やはり暗いデパート内を歩き回るのは怖い。私は足をがくがくしているのを抑えて霧生についていった。


「そういえば霧生さん、なんで私たちがやらなきゃいけないの。警備員とかいないの」

「いますけど、少ないより多いほうがいいってこのデパートの支配人が」

 霧生は微笑んだ。

 暗く狭い道を懐中電灯一つで照らしてゆっくりと歩を進めた。コツ、コツと足音が通路じゅうに響き、空気はまだ生暖かい。

 私は霧生の肩を持ち、腰を引かしながら進んでいる。

 すると、遠くで音がした。カーンという音だ。缶でも落ちたのだろうか。霧生は興味津々のようで、その反対にびくびくしている私がいる。

 そして霧生は言った。

「大島さん、何でしょう、あの音って。行ってみませんか」

 私はその言葉に対して、またびくっとした。

「いや、私は…」

「行きましょ、行きましょ。何か二人だと楽しくなってきますね。私、いつも一人でしたから」

 霧生は私の手を引っ張り、私はされるがまま引っ張られた。本当は行きたくないが、腰が引けて力が出せなかった。抵抗できずに私は前のめりで歩いた。
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