透明人間
  このこは ぼく このこ ひとりで かわいそう

 いろいろと考えている間に誠也は文字を書いていた。

  パパは どうしたの パパとママは どうして ぼくを みないの


 私はまだ泣いていたが、文字を書いた。目の前が見えなくても、誠也に思いをつづることはできた。


  みてるわ ママはいつも みてるわよ


 そして私は鏡の中の誠也を見て、二人の誠也を抱いた。見えなくても、実際に触れなくても、ここにいるという意識だけで幸せだ。もうこのまま、一生いたい。一生、抱いていたい。もう離したくない。私の脳裏にはあの辛い思い出がよぎり、その記憶が消えたと思うと、新しい新生活、つまり未来の私たちの幸せな生活が映った。今の私なら何でもできるだろう。

「大島さーん。どこですか」

 霧生の声と足音は近づいてくる。

 その声を聞いていた私は誠也たちを放し、急いで鏡に息を吹きつけ、指を走らせた。


  せいやはやさしいのね すぐかえるから そのこをつれて いえにもどっておいで

  わかった ママもはやく きてね


 誠也はそう書くと、試着コーナーを出て行った。

 そのすれ違いに、霧生と警備員は到着した。

「大島さん、どうしました」

 私は涙を拭き、霧生のほうを向いた。

「もう…解決したわ…」

「え…何がですか」

 私は優しく微笑んだ。

「秘密よ」

 私の鼓動はまだ高かったものの、しゃくり声のおかげで何も気付かれなかった。霧生は私に事情を聞こうと何回も聞いていたが、私の耳に入ってくるはずがなかった。私は鏡を見ていたのだ。鏡の奥にある、未来と希望を、私は感じていた。
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