夢見るきみへ、愛を込めて。
「私、金縛りにあったことないや。どんな感じ?」
「嘘でしょ。本気で言ってる? 睡眠麻痺って聞いたことない? あれはマジで動かせないよ。目は覚めてるのにさ、瞼すらびくともしないのって結構、怖い」
「ふうん」
夢の中に自分の意識があって、覚めろって思っても覚めない感覚と似てるのかな。というか、睡眠についてはいろいろ調べた経験から知っているけど、金縛りってストレスが原因じゃなかったっけ。
この人が、ストレス? 疑いの眼差しを向けると、彼は私を見ていた。
「それで? どうしたの。何かあった?」
「……」
「ふふ。その、なんで分かるの?って顔、見慣れたなあ」
嬉しそうに破顔する彼から背けた頬が、熱くなっていく。
なんで分かるのって思ったわけじゃない。私はいつだって、曖昧だけれど、はぐらかさずに答えているつもりだ。今日だって、寝付けないとちゃんと答えた。それなのに、どうしていつも、他に何かあったんじゃないかって。言葉の奥底を覗いてくるんだろうって。驚くんだ。息が止まってしまいそうになる。心に直接、触れられたみたいで。
「……先週さ、きみはすごく怒ったでしょ。同じくらい、哀しそうで。あれ以上続けるのは良くない気がして帰ったけど。なんていうか、ずっと気がかりで」
あなたが気にすることじゃない。そう言っても彼はしぶとく気にするってことを、私はもう知っている。祈っても、願っても、元には戻らないことも。
だから彼に言われた通り、私は、はがゆいんだろう。最近は特に、思い通りにいかないことばかりで。誰かに話せばいい方向にいくだなんて思ってはいないけれど、不思議と悪い方向へいく気はしなかった。
「薬がね、効かないんだ」
いっくんに逢えるのなら、眠ることは怖くないはずなのに。寝付けなくて、別のことを考えてしまう。いっくんではない人を、考えている。