夢見るきみへ、愛を込めて。
「薬って」
「ああ、えっと。どこも悪くないよ。睡眠薬代わりって意味」
「……ひつじを数えるみたいなこと?」
彼らしい発想に頬が緩み、「それよりもっと強力」と答えた。
「どうして効かなくなっちゃったの」
「なんでだろう。他に、余計なこと考えちゃうせいかな」
言葉にすると頭の中が片付いていくようだった。ほんの少し前までは、一心にいっくんのことだけを想って眠りについていたのに、最近の私は思い返す限り、お父さんや彼のことも考えている。
――なんのために?
はたと浮かんだ問いに、胸がつかえた。まるで余所見するなとでも言いたげな圧迫感。正直な身体は気を抜くと押し潰されてしまいそうで、ぐっと堪えた。
余所見なんかしていない。私は、いっくんだけのもので。いっくんだけが、私を好きに扱える。
3年前と変わったところはあるのかもしれないけど、いっくんへの想いは変わらない。絶対に失くさない。疑わない。逢えなくなっても想い続ける。今日も明日も明後日も、ずっと。もっと。想い続けるから。
幻のようには決して、消えないで。
びくりと肩が跳ねた。驚いて、ほうけたまま隣を見ると、私を覗き込んでいた彼が再びぽんと二の腕を叩く。
「俺が見える?」
そう声をかけられて、拳を握り、足の指先まで込めていた力が、ふっと緩んだ。
「……見える」
答えると彼は目を細め、唇に三日月みたいな弧を描く。
「じゃあ話して。今、きみが話したいと思うこと」
身体の奥で、小さく心臓が鳴った。
何が、じゃあ、なのか。全く意味が分からなかったけれど、私の話を聞くために彼はここにいるのかと思うと、なんだかずっと流せずにいた場所から、涙が溢れそうな。不思議な感覚に包まれて、そっと頭上に広がる星空を仰いだ。
記憶の欠片が花びらのように、満天の星へ舞い上がっていく。