聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
第八章 奇跡

まぶしい青空のキャンバスに、花びらがひらりひらりと桜色を描いて舞い落ちていく。

それは流れる優しい風までも桜色に染めるようだ。

一人見上げるカイの心までも。

満開の桜の花が、散る季節。

―一年ほど前、この花園宮の同じ桜の木の下で、リュティアに花吹雪をプレゼントしたことを思い出す。あの日もこんなふうに空は晴れ、桜の花びらが舞っていた。

あの日から、すべてが始まったのだ…。

カイの足元、桜の木の根元には先ほどまで読んでいた二通の手紙が置かれている。

一通は、セラフィムから。

フューリィと、世界中の本を集めるために旅に出たので、フローテュリアに行ったら必ず会いに行くと書いてあった。

もう一通は、フレイアから。

ザイドとの結婚式の招待状だった。リュティアに、無理を承知で女王としてでなく個人的に来てほしいから、カイ宛てにしてあるのだ。

花びらをつかまえようと手を伸ばすカイの背後に、軽い足音が近づいてくる。

気配だけで誰だかわかる。

いいや、それだけではない。衣擦れの音でその人の服装までわかるのだ。

カイの手を、桜の花びらがすり抜けていく…。

―ついにこの日が来てしまった…。
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