聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「…だったというんだ。そういえば…リュティア女王、聖具は?」

聖具、その言葉がリュティアを我に返らせた。そして深い自責の念に突き落とした。

「申し訳ありません…本当に申し訳ありません…聖具はすべて、粉々に破壊されてしまったのです。ライト様に……」

「なんだって」

アクスの顔色がみるみるうちに青ざめるのをリュティアは見ていられなくてうつむいた。―なぜ聖具を守れなかった!

自分のふがいなさがアクスの希望を今まさに打ち砕いているのだと思うと辛くてとても直視できなかった。深く深くうつむくリュティアの上にアクスの震える声が降ってくる。

「では…世界を守る聖なる力はもう」

「はい……」

「なんてことだ…私がもう少し早く…くそっ」

アクスが自分を責めているのがわかる。違うのだ、悪いのはアクスではないのだ。そう思ったが、もやもやとした気持ちが重すぎて言葉にならない。

二人は言葉もなく、肩を落とし、悄然と雪の山道を歩いた。

不意にアクスが決然と顔を上げたのは、フローテュリアに通じているという“闇の道”にもう少しで差し掛かろうとする頃だった。

「いや、まだだ。まだ希望はある」

その赤茶色の瞳には、炎が宿っているように見えた。

「アクス…?」

「リュティア女王。聖乙女の伝説の最後の一節を思い出すんだ。“乙女の力極まりて 消えない虹架かる時 人の子ら 救わるるであろう”」

「消えない虹……そう、ですね…消えない虹をかけることができれば…?」

「ああ。消えない虹、その言葉に、私は心当たりがあるんだ。リュティア女王、このまま私と一緒に来てくれないか」

「一体、どこへ?」

「―ピティランドへ。海へ」
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