聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
第二章 果実の理由(わけ)

額が熱い。熱があるのかも知れない。それに―

ぶぇくしっ!

また派手にくしゃみが出た。

―なんでこんなにくしゃみが出るのよ。やってらんないわよ! くしゃみのばかばかばかばか!

「じゃあ、ちょいと賞金稼ぎの魔月退治に行ってくる。本当はお前を野放しにすると非常に、ひっじょうに、不安なんだが、いかんせん私たちは無一文だからな。いいか、くれぐれも大人しくしていろフレイア。このテントから出るな。でないと風邪をこじらすぞ、わかったな」

腰に大剣を帯びたジョルデがテントの出口の布をめくりながら何か言ったが、手近にあったハンカチで盛大に鼻をかんでいたフレイアは半分も聞き取ることができなかった。

だがまあ、どうせこの口うるさいお目付け役の言うことなど聞かなくてもだいたいわかろうというもの。

「わぁかってるわよ、わかってますわかってます。早く行っちゃいなさいよ~だ」

「夕方もこの薬をちゃんと飲むこと」

「げっ。また? 朝も飲んだのに?」

「つべこべ言わず風邪ひきは大人しく薬を飲んで休む!」

「…だってその薬、すっごく苦いんだもの…」

「もし飲まなかったら、殴るぞ」

「…イタッ! もう殴ってるじゃないのよっ」

「これはデモンストレーションだ」

遠慮なくフレイアの頭をぽかりとやった腕を腰に当て、ジョルデはにやりと笑った。

一方的に殴られて黙っているフレイアではない。フレイアは拳を握って反撃に出たが、ジョルデはそれをさらりと素早い身のこなしでかわすと、そのままテントを出て行った。

あとには苦い薬とフレイアが残された。
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