シーソーゲーム
 雨はひどく降っている。もうダムも満タン近く貯まっており、田んぼや植物にも十分に蓄えられている。川も危うく氾濫しそうだというが、実際にそれはないらしい。洪水もなく、津波もなく、まことに平和だった。ここ最近、殺人や少年犯罪なぞの事件も聞いていない。あえて言えば、それが事件なのかもしれない。

「リョウ。おはよう」

「おはよう」

 挨拶を交わし、いつものように話し、いつものように昼を一緒に食べ、いつものように帰る。それが楽しかった。すべてが平行線で進んでいるように思えた。そうであって欲しかった。

 そんなある日のことであった。教室に入ってイスに座って気がついた。ある一人の女子が、離れた位置にいる集団の女子から罵声を浴びせられていた。いわゆる、いじめ、である。女子の集団は面白がって罵声を浴びせていた。

 何でそんなことをするのか、私は理解ができなかった。何が楽しくてやれるのか、私は一緒になってやろうとは思わない。あいつらの気が知れない。

 だが私はそれを見て見ぬフリをしていた。関わっても損も得もない。無駄な労力だ。巻き込まれて、標的にされたら嫌だ。あらゆる思いが交差し、挙句の果てには鑑賞会。

 その日々がしばらく続いた。梅雨も終わりを告げ始めているのか、雨が少なくなってきていた。

 相変わらず罵声を浴びせ続け、集団は楽しそうに笑っている。

 それをみていた私は、そのいじめられている人、成城に話しかけようとする一つの影を見た。

「ちゃんと嫌ならやめてって言わなきゃだめだよ」

 見かねたのか、それともヒーローにでもなりたいのか、岸は積極的だった。

「容姿もいいのに、それじゃだめだって。私が言ったげる」

 まっすぐその集団に向かい、割るかのように岸は集団内に入っていった。

 あの優しくて静かでおしとやかな岸とは思えない行動だった。

「やめなよ。嫌がってるじゃない」

 刃向かう態度で食って掛かった。

「何であんたにそんなことが分かるのよ」

「そうよ。何も言わないって事は、そういうことじゃないの」

 しかし、クラスは岸の勇気に味方したのか、白い目と非難の声を浴びさせた。

「そんなの、モラルの問題じゃない…」

「そうよ。そんなことで快感を得るなんてねぇ…」
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