シーソーゲーム
 今日の朝、リョウが元気そうなのを見て、実は足はふらつくほど疲れていた。よく寝たはずだったが、疲労はたまっていた。今までリョウの怪我などが気がかりで、私の心は緊張状態が続いていたのだった。そのおかげで、電車の中も、バスの中も、私は寝たきりだった。その時、私は知らずに私のやりたかったことを実演していた。

 駅で別れ、家に帰ろうとしたその時、ミズは私を誘った。リョウとミズキも一緒に行くと言ったが、ミズは断固としてそれを許さず、先にリョウとミズキを帰した。

 それで私は何事かと思った。ミズはリョウが好きなだけだということで、それだけを知っている私は十分な事物だと思っていた。

 そしてあの、私がミズに要請を求めた喫茶店に入った。そこで、私たちは座るなり、思いも寄らない言葉をミズは深刻そうに吹っかけるのであった。

「お願い…私に…キャンプの…記憶を忘れさせて…」

 ミズは泣いて私にすがりつくような一心で、必死さが感じられた。

 それは私に大打撃を与えた。ショックだった。ついにミズがイカれたのだと思った。

 だがそれがなぜ打撃を与えたのかというと、本当にそのミズの必死な姿が思わせぶりな態度にも思えなかったからだ。

「お願い…お願い…」

 ミズは泣いて顔をうずめるだけで、私はどうしていいか分からず、ただその光景を呆然と見ているだけだった。

「お願い…お願い…」

 ミズはまだ言い続ける。

 だが、だんだん私はこのことをまんざらでもなく思えてきた。実は私はそんな能力があるのか。そう思わせた。とりあえず、周りの人も店員も、皆注目している。今までこんなに人から見られたことはない。それが不快で、また、嫌に思えた。

「分かったから。もう、泣かないで」

 なだめるように問いかけたが、それは届いていないようだった。

「泣かないで。ほら、顔を上げて…私のほうが悲しくなってくるよ」

 私はとりあえずミズを連れ出した。何も頼んでいなかったので、ただ水だけを飲みに来た、嫌な客にしか思われなかっただろう。

 人気のない場所までミズの腕を引っ張り続け、踏切を越え、商店街から外れた野球場まで来た。そこのバックネット裏の五段でできた客席の中段に座り、またそこでなだめた。
< 33 / 214 >

この作品をシェア

pagetop