シーソーゲーム
「ほら、もう泣かないでよ。本当に…」

 ミズはここまで来る時に少しずつ落ち着きを取り戻しつつあったので、もうなだめて泣き止ませることぐらい、容易なことだった。

 そしてその落ち着きを取り戻したミズはやっとの思いで口を開いた。

「…うん…もう、泣かない」

 そういうことで、私は色々と質問攻めに合わせた。それも泣きたくなるぐらいの。泣かないと言った以上、ミズは泣くわけにはいかず、ただ質問に答えるだけだった。だが質問攻めと言っても、大したことはない。生まれた疑問の解消のためだ。

「記憶を消すって…どういうこと?」

「ほら…分かってない…」

「いいから、答えなさい。どういうことなの?」

「それは…言いにくいけど、あなたはそういう能力があるっていうこと…これ以上、話せない」

「何でよ」

「それは…言えない。絶対…だめだから。いつか、知るときが来る…」

 こういう会話を繰り返していくうちに、ミズの言う言葉の意味が道理に合わないことが分かった。なぜ私が知らないことをミズが知っているのか。それがあまりに不自然で、不思議でたまらなかった。

「何で言えないの?それに、何で私のことを知っているような素振りなの?知るときが来るって、どういうこと?」

「それは…」

 ミズは口を閉じ、開ける気配は見られなかった。

 すべての質問に答えて欲しかったが、一つの質問でいいから答えて欲しい。そうすればどうにかなる、一歩進めると思った。どう進めるのかは予想も想像さえもできなかったが、私が何なのか、ということが分かるような気がした。

 夕陽が落ちようとしている。そして遠くでカラスが鳴いている。

「それは…私が…私は…これは…だめなの。言っちゃ…」

「え…何で?」

 もう聞いてはいけないような領域に入っている。だが私はそこに踏み込もうとしている。まだ見もしない世界を見たくなるような、そんな童心だった。入っては二度と戻れないような気もした。だが現実に、そんなことは普通、考えられない。だって現実なんて、単純で同じような日々の繰り返しだもの。

「これは…これは…そう。禁制。私にとっての、禁制…要目。そう、禁制要目。それをしちゃいけないの」
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