シーソーゲーム
 話は変わるが、人は個人特別だと聞いたことがある。人にはそれぞれ使命があり、生きる意味を持っている。だがそれは本当だろうか。自殺志願者、ホームレス、いじめられっ子、凶悪犯罪者…。どういう使命だか教えて欲しい。自分だって、結局今は生きているだけで、最終的には自分のしたいことをやる。どこに使命を果たそうとする心があるだろうか。ただ人間は欲に満ちて自然を壊す生き物。自覚も持てず、めんどくさがり、この世から第一に排除したほうがいいもの。私の存在意義は何だろう。私がここに生まれたことはどういうことにつながるのだろう。もしかしたら生きている価値なぞ初めからないのではないかと思った。これはコンサートに行ってから考え込み始めたことである。一日たりとも忘れたことは、ない。

 こういうことを、祭りに限らず人混みの場所、つまり駅や遊園地、東京なんかに行くとなおさら深く考え込む。

 風が吹いた。強い風だ。私は不吉な思いがした。

「ほら、早く行くぞ」

 ミズキは急かす。もう人混みに入ろうとしているところにいた。

「うん。行こ…」

 そしてミズキの元に行こうと神殿から降りる小さな階段に足をかけた時だった。私はリョウを見た。人混みに紛れて、すっと消えていった。

 私はまさかと思い、すぐさま階段を下りた。そして人混みに潜り込み、ミズキよりも先に行った。

「おい。どうしたんだよ」

 ミズキの声はだんだん遠くになっていった。そんなことも気にせずに、茂みを掻き分けて、押し分けて、リョウの向かっていったほうへ歩く。こんな時、なぜ着物なんかを着てきたのだろうと思う。こんな重いものなんて、今すぐはぎ捨てたい。

「あ…」
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