シーソーゲーム
 たこ焼き屋の角を曲がった時だった。五メートルほど先にリョウの姿があった。

「リョ…」

 だが呼べなかった。呼べるはずがなかった。だってそこにはリョウと一緒に、ルイもいたのだから。その二人の仲良しっぷりったら見れたもんじゃない。目を伏せてしまいたい。いっそ目を取ってしまいたい。今まで私には見せたことのない笑顔を、ルイの横でしてみせた。ルイは一丁前に着物を着こなしていて、きれいだった。おしとやかなイメージがそのまま味が出ている。そしてリョウの笑顔に満足そうに笑う。

「どうしたんだよ…」

 この人の多い中でついてきたミズキは息切れしながら言った。

「私…帰る」

「え…おい…」

 ミズキを置いて、私はリョウたちの進行方向とは逆のほうへ向かった。そっちは私の家から遠ざかるほうであったが、気にせず歩いた。

 ミズキはついてこない。むしろついてきて欲しくはない。今は一人でいたい。長く、しばらく、夏休みが終わるまで。

 住宅街に出た。ミズキの家に向かうにはここを右に曲がればいいのだが、私は帰ることを目的としているのでここを左に曲がる。下校途中に差し掛かる別れのY字路で、左に曲がり、後はまっすぐに歩く。風が冷たく当たったが、気のせいだろう。

 駅から遠ざかる汽車のように、汽笛はだんだん小さくなっていった。住宅街を下駄の音を除夜の鐘と重ねて聞きながら歩いていると、いつの間にか公園の前まで来た。私は公園に入り、そのまま公園内を通過して反対の出入り口から出た。あえて遠回りの帰路である。少々時間がかかったが、ようやく玄関のドアを開けた。

 腰に巻いた帯を廊下で捨て、自分の部屋に入り、ベッドに死ぬように倒れこんだ。

 そのままどれだけ時間が経ったか覚えていない。はっきりとした意識はなく、朦朧としている。
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