シーソーゲーム
 そして始めた。私は一生懸命に歌い、弾いた。リョウもネクタイを途中で緩め、本気でやっている。あんな目を見るのは久しぶりだ。

 今日用意したのは二曲。実はもう一曲あるのだが、それは未完成だった。

 一曲目が終った時、体育館の椅子は、半分埋まっていた。それを見て、満足そうな顔をしている。

 後一曲あることを告げ、本格的なバンドを始めた。

 リョウは成城からベースを渡し、代わりにギターを受け取った。

 そして始めるのだ。リョウの即席オリジナルが。

 後夜祭でも歌った。私たちは選ばれた。リョウに早々と曲を書いてもらい、即席だが聴いてくれた人は騒いで、盛り上がってくれた。そしてアンコールもあったので、多分あまり聞かれていない、昨日の一曲目の曲を歌った。

 そして『輝望祭』は幕を閉じた。

 私にとって、十分な思い出だった。リョウと一緒のステージに立ったし、それに楽しかった。これでもう高校生の思いではいらないと思った。だってこんな楽しい気分になれたのは、初めてだ。

 リョウは後で俺に感謝しろと恩着せがましくするが、確かにリョウのリードで大成功であった。しかも曲は極限に仕上げられていて、曲の最大の良さが引き出されていた。渋も成城も素晴らしいほど的確で、唯一リーダーの私が一番出遅れたような感じだった。

 しかしそれがきっかけで、リョウはモテ始めた。

 正直驚いた。私はそれがきっかけで、もしかしてリョウの気持ちが揺らぐのではないかと不安に思った。

 女子に囲まれ話しているリョウの顔は清々しいほど嬉しそうだ。

 私はその中を割り込んで、早く帰ろうと誘ったが、もう少しだからと言うだけで、結局ミズキと二人で帰ることにした。今日は休日なのだが、模試で学校があり、さらに夕方までかかった。

 そのすっかり疲れてしまった帰り、ミズキは言う。

「あいつ…変わったよな」

 その一言は深く見事矢を射られた。ちょうど心臓辺りだろう。むかむかする。しかしそれはまだ核心ではない。いつ頃かと尋ねてみた。

「それは、ええと…成城さんを助けた時ぐらいかな…」
< 88 / 214 >

この作品をシェア

pagetop