I love you に代わる言葉
 ボクは黙ってそれを聞いていた。視線だけを俯けて思考する。
 今なら、自分に置き換えて想像する事が出来る。これまでならきっと、こんな話を聞く事もなかったろうが、仮に聞いていたとしても、それは酷く曖昧で理解し難いものだったに違いない。
 軽い調子で話してはいるが、恐らく今井は本当に上原という女を好いていたんだろう。今でもそれが続いているのかは謎だが。
 こんな風に考えられるようになったのは、ボクも『好き』という感情を知ったからだ。永遠のようで一瞬で、一瞬のようで永遠な想い。扇風機の風でふわっと飛ばされそうなのに、それは地に強く根を張り持ち堪える。複雑であり、単純であり。
 暫く沈黙が流れたが、間もなく、静かとは言えぬ寝息が耳に届いた。
 もう寝たのか、そう思い今井へ視線を向ければ、気持ち良さそうに眠る姿がそこにはあった。ポカンと僅かに開かれた口。その寝顔はやっぱりアホ面で、暗闇にぼやっと浮かぶ。
 今井は何処までも今井なんだな、そう思い、フッと小さく笑みを零すと、ボクも静かに目を閉じた。



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