I love you に代わる言葉


「こんにちは。いらっしゃい」
 今井がもたもたしていた所為で、結局家を出たのが十四時半過ぎになった。シンの家へ到着したのが、十五時過ぎ。此処へ来る道中、ボクはやっぱり不機嫌だった。こいつはいつもそうだ。こんなに相手を怒らせる事が出来るのも、ある意味才能ではないかと最近考えるようになった程だ。
 だけどこうしてシンの家へ来て、シンでない人物に出迎えられれば、驚きと同時に嬉しさも溢れ、今し方持っていた怒りの感情など、一瞬で霧散する。感情は複雑なくせに、やっぱり単純だ。
「こんちわッス! あの~……シンは?」
「真は今寝てるみたいです。呼び掛けたんだけど返事が無くって」
「そうなんスか。えと、上がっていいんスか?」
「どうぞ」
 おねーさんは顔を綻ばせながらボク等を中に招き入れる。扉を支えているおねーさんの間近を通るのが何だか気恥ずかしくて、おねーさんの視線を感じたけど、わざと目を合わせなかった。
「オ邪魔シマス……」心持ち振り返り小さく言った。今井のように元気良く挨拶出来ない自分を少しだけ情けなくは思った。基本である挨拶をまともに出来ないんだから。だけど小さな声はおねーさんに届いたようで、ふふっと背後から笑い声が聞こえた。
「おーい、シン。」
 扉をやや強めに三回叩く今井。来るのが遅くなったから待ちくたびれて寝たのかも知れないな、そう思ったけど、然程間を置かず、扉はガチャっと内側から開かれた。
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