I love you に代わる言葉
「いや~、それにしても恋の力って偉大だな! 人をこうも変えるんだからよ!」
 今井はやや目線を上げ、とてもキラキラした瞳で言う。ボクは照れ臭さのあまり、否定の意を訴えようとしたが、そんな事は出来そうもなかった。……悔しいが、今井の言ってる事が正しいからだ。
「アンタもいちいちウルサイんだよ……さっさと帰りたいんだけど」
「なら煌宝行こうぜ」
「アンタ話聞いてるのか? “なら”って何だよ“なら”って。ボクは帰りたいって言ったんだけど」
「いいじゃねーか、行こうぜ」
「冗談じゃないね。今行ったらこれがバレるだろ」
 ボクはそう言って左手を軽く上げ、紙袋を今井に見せた。白いシンプルな紙袋だが、店名がしっかりと記されている。おねーさんが見たら即バレてしまうだろう。
「俺が持てば問題ねーんじゃねーか? 何か聞かれたら、彼女にプレゼントって言っとけばいいし。――我ながらいいアイデアだぜ!」
 パッと明るい表情を作る今井の言葉に、ボクは黙る。ああなるほど、と思ってしまった……。しかしこいつは何なんだよ……こいつを何とか帰らせる方法はないものか。こういう時、シンが居てくれればと心底思う。ボクは深く溜息をついて、渋々だが、それで承諾の意を伝える。
「貸せよそれ、俺が持つ」
 今井はそう言って右手を差し出してきたが、ボクはその手を無視して歩き出した。
「ショッピングモールに到着したら渡すよ。それまではボクが持つ。振り回して壊されでもしたらたまらないからね」
 ショッピングモールが位置する方角に向かって歩きながら、ボクは言う。すると、振り回すかよ! とやや怒り気味の今井の声が背中に届いた。



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